脱落前のヒト乳歯では、歯髄側からの内部吸収が象牙質からエナメル質まで及ぶことがある。この様な乳歯のエナメル質吸収窩表面を観察すると、破歯細胞が認められる部位、破歯細胞が認められない部位、更にはセメント質様の硬組織が添加している部位など様々であった。これらの組織像はエナメル質の吸収からその修復の過程を反映していると思われた。特に興味深いのは、すべての過程でエナメル質吸収窩表面には、骨改造過程に吸収窩表面に認められるセメントラインと同様なトルイジンブルーやPAS陽性の1〜4μmの有機成分の層が認められたことである。この観察結果は、エナメル質吸収窩表面に認められる有機成分の層がエナメル質の吸収とその後の修復過程に重要な役割を果たしていることを示唆するものである。電顕レベルでエナメル質吸収窩表面を観察すると、吸収時では破歯細胞直下のエナメル質の脱灰層に、修復時には脱灰層とそれを被覆する0.2〜0.6μmの微細顆粒状の層に対応していた。更に、エナメル質吸収窩表面の細胞の変化を観察すると、吸収が終了すると破歯細胞は吸収窩表面から離れ、多数の貪食能を示す単核細胞が出現し、それと同時に吸収窩表面には微細顆粒状の層が形成され始めた。その後、セメント芽細胞様の細胞によりセメント質様の硬組織が次第に添加していた。以上の結果より、エナメル質吸収窩表面に認められる有機成分の層に存在するある種のタンパク質がこの過程に関与している可能性が考えられた。現在の時点では、各種の抗体を用いた免疫組織学的観察によりエナメル質吸収窩表面の有機成分の層にはosteopontin、TGF-β、IGF-Iなどが存在することが明らかになったが、これらがどの細胞に由来するものか、またどの様な働きをしているかについては生化学的実験の結果とあわせ比較検討中である。
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