歯の吸収窩表面に認められるセメントライン様構造物が、破歯細胞の吸収終了後に起こるセメント質様の硬組織による修復にどの様な関連性を持っているか調べる目的で、脱落前のヒト乳歯で観察されるエナメル質の吸収と修復現象に注目し、歯の吸収窩のセメントラインの成分とその働きについて考察を加えた。その結果、以下に述べようなことが明らかになった。1.象牙質だけでなくエナメル質の吸収窩表面にもセメントラインが認められ、吸収される基質により差異はみとめられなかった。2.歯の吸収窩表面のセメントラインは骨の吸収窩表面に認められるセメントラインとほぼ同様な性質を持ち、BasopilicでPAS陽性であった。また免疫組織化学的検索では、Osteopontin、BSP、TGF-β、IGFなどが局在していることが明らかになった。3.エナメル質の吸収窩表面のセメントラインの成分にもほぼ同様なものが存在していることから、これらの成分は吸収された基質由来のものではなく、組織液由来あるいは破歯細胞により分泌されたもの考えられた。4.セメントラインの成分は、破歯細胞による吸収過程で脱灰される吸収窩表面の基質の状態と密接な関連性を持っていると考えられた。5.エナメル質吸収が終了した吸収窩表面のセメントラインに沿って特異的にセメント質様の硬組織が添加していたことから、セメントラインが硬組織の形成系の細胞を吸収窩表面に誘導している可能性が考えられた。6.セメントライン上に添加したセメント質様の構造物は、セメントラインから次第に石灰化していたことから、セメントラインに存在するOsteopontinやBSPなどが添加した硬組織の石灰化を調節している可能性も考えられた。以上の結果より、歯の吸収窩表面のセメントラインには、歯の吸収終了後に起こる修復現象に重要な役割を果たしている所謂Coupling Factorが存在することが示唆された。
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