平成11年度は、BMPとnogginの相互作用が骨格形成のどの段階で、どのように起こるかを明らかにすべく、複数のアプローチを試みた。(1)培養細胞を用いたin vitroでの軟骨分化におけるnoggin遺伝子の遺伝子発現制御、(2)マウス胚を用いたin vivoでの骨格組織発生過程でのnoggin遺伝子の発現とBMP2、4、7との時間的空間的発現領域の比較、さらに(3)マウス胚器官培養系を用いたnoggin遺伝子のBMPによる発現誘導について検討した。in vitroで多分化能を持つ間葉系幹細胞C1においては、軟骨に分化する条件で特異的にnogginの発現の上昇が見られる一方、骨芽細胞の分化する条件では発現の上昇は見られない。C1細胞の分化誘導以前でもこのnogginの発現は、BMP4/7ヘテロダイマーおよびBMP7タンパクを加えると誘導され、ほかの局所因子では発現誘導が起こらなかった。マウスの骨格形成過程でも、骨格原基前駆細胞の凝集から軟骨形成に至るまで、BMP7とnogginの発現領域が近接して観察され、一方、他のBMPとnogginには同様の空間的な発現領域の相関関係は見られなかった。さらにマウス胎児肢芽を用いた器官培養においても、骨格原基形成期にあたる11.5日胚において、BMP7によってnogginの誘導がおこり、その作用は濃度依存性、時間依存性を示した。これら3つのアプローチから、骨格形成期においてnogginの発現は、BMPによって誘導されることが示唆され、BMPからのant agonistの誘導を通じたnegative feedback機構が、骨格形成を制御する重要な分子メカニズムである可能性が示唆された。平成12年度においては、BMPとnogginの作用にはさらに別の因子が関わっていると考え、本年度は間葉系由来組織に特異的に発現していることで知られるフォークヘッド型転写因子MFH1に着目し、その発現様式とBMP-nogginの相互作用への関与について検討した。(1)間葉系細胞C1細胞においては、分化誘導を行っていない状態でもMFH1遺伝子は構成的に発現している。軟骨細胞に分化する条件では、比較的初期の段階でMFH1遺伝子の発現上昇が認められた。更に、BMP4/7ヘテロダイマーを加えるとMFH1遺伝子発現の促進が認められた。(2)マウス胎生10.5日齢胚においては、体節由来の硬節、頭部間葉組織、肢芽間葉組織にMFH1遺伝子の発現が集積した細胞塊が認められた。11.5日齢ではMFH1遺伝子の発現は、nogginを発現している骨格原基の周辺部で、BMP7の発現領域と重複していた。12.5日齢胚でも、同様に体幹中軸、四肢骨格の骨格原基の周囲にMFH1遺伝子の発現が認められた。(3)11.5日胚の細胞凝集塊形成期の肢芽に、リコンビナントBMP7タンパクを局所的に埋入し器官培養を行ったところ、埋入した部位のすぐ近傍で、BMPにより生じた細胞凝集の周辺部に遺伝子の発現が誘導された。この部位はBMPにより生じるnoggin発現部位を取り囲む部位であった。これらの結果からMFH1遺伝子は骨格形成過程の初期の分化過程に関与し、その発現はBMPシグナルの制御下にある可能性が示唆され、MFH1も骨格形成に関与するBMPとnogginの相互作用に関わる機能分子の一つである可能性が示された。
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