研究概要 |
本研究はカテプシンEならびに他のカテプシン群のミクログリアの抗原提示機能における役割を明らかにし、顔面神経の軸索切断後の修復機構あるいは逆行性変性機構におけるミクログリアの役割を検討を明らかにすることを目的として行った。 (1)ミクログリアの外因性抗原提示機能に対するカテプシン群阻害剤の影響 まず、NF-ATの下流にLacZ遺伝子を組み込んだovalbumin(OVA)特異的T細胞ハイブリドーマ(C57BL/6由来)と新生仔マウス(C57BL/6)の全脳より調整した初代培養ミクログリア細胞との共培養系において、インターロイキン-2の産生分泌をT細胞活性化の指標とし、ミクログリアの抗原提示機能を定量化する系を確立した。次に、インターロイキン-2の産生分泌を指標にしてカテプシン阻害剤の影響を検討した結果、アスパラギン酸プロテアーゼ阻害剤であるpepstatin A(10uM)はOVAによる抗原提示を抑制したが、OVA抗原ペプチドによる抗原提示には全く影響を及ぼさなかった。一方、カテプシンB特異的阻害剤であるCA-074Me(10uM)ならびにカテプシンS特異的阻害剤であるCLIK060(10uM)はOVAならびにOVA抗原ペプチドによる抗原提示を有意に抑制した。 (2)精製酵素によるOVA消化断片による抗原提示の検討 ラット脾臓より精製したカテプシンE,カテプシンDならびにカテプシンBを用い、これらのカテプシン群によるOVAの消化(pH5.5,24時間)により抗原ペプチドが生成されるのかどうかを検討した。これらの消化断片をインターフェロン-gで処理した後に4%パラホルムアルデヒドで固定したミクログリアとOVA特異的T細胞ハイブリドーマとの共培養系に加え、培養液中のインターロイキン-2をEIA法により測定した。その結果、カテプシンEあるいはカテプシンDにより消化したOVA断片はインターロイキン-2の産生分泌を有意に増加させたが、カテプシンBにより消化したOVA断片の場合にはインターロイキン-2は対照群との有意な差は認められなかった。この結果より、カテプシンEならびにカテプシンDはOVAから抗原ペプチドを生成できることが明かとなった。 (3)カテプシンD欠損マウスより調整した初代培養ミクログリアの抗原提示機能 生後5日齢のカテプシンD欠損マウスの全脳より初代培養ミクログリアを調整し、OVA特異的T細胞ハイブリドーマとの共培養系にOVAを加えた後、培養液中のインターロイキン-2をEIA法により測定した。その結果、インターロイキン-2量は野生型に比べて若干低い値を示したが、対照群に比べて有意にインターロイキン-2が増大していた。この結果より、カテプシンDはミクログリアにおけるOVAの抗原提示においては必須な酵素ではないことを示すものである。 (4)カテプシン群阻害剤のインバリアント鎖のプロセシングに及ぼす影響 インバリアント鎖のプロセシングに対するカテプシン阻害剤の影響をさらに検討する目的でインバリアント鎖に対する抗体を用いてウエスタンブロット解析を行った。その結果,leupeptin(100uM)やE64d(10uM)で処理したミクログリアではこのようにプロッセシングを受けた分子量10kDaのlip10と呼ばれるペプチドの蓄積が見られ、これ以降の分解が阻害されていることが明かとなった。ところがpepstatin A(10uM)で処理しても全くこのような蓄積は認められなかった。またleupeptin(10uM)で同時に処理してもlip10の蓄積には影響を及ぼさなかった。 以上の結果より、アスパラギン酸プロテアーゼであるカテプシンEならびにカテプシンDはインバリアント鎖の分解にはほとんど関与せず、OVAの抗原ペプチドへの分解に関与していることがが明かとなった。この際、カテプシンDは必須ではなくカテプシンEの方がより重要な役割をはたしていることが強く示唆された。また、顔面神経切断モデルでの検討では活性化ミクログリアの集積部位にはT細胞の浸潤は認められず、軸索再生における抗原提示の役割は明らかにできなかった。
|