研究概要 |
ヒト唾液腺細胞株(HSG)はレチノイン酸により増殖や分化が制御される。本研究では,レチノイン酸レセプターにより誘導される転写活性化過程におけるcoactivatorの関与を明らかにするため、代表的coactivatorであるCREB-binding protein(CBP)のHSG細胞での発現を調べた。免疫沈降法、ウエスタンブロット法ならびに細胞免疫染色法により調べたところ、本細胞には分子量約270kDaのCBPが発現することが明らかになった。また、CBPによる免疫染色は細胞核内にのみ見られ、CBPが核内タンパクであることと一致した。 つづいて、CBPの転写活性化におよぼす効果を調べるために、HSG細胞にレチノイン酸応答配列を有するルシフェラーゼレポータージーンとCBP発現プラスミドをコトランスフェクションし、CBPの過剰発現によるレチノイン酸依存性転写活性化を調べた。レチノイン酸依存性ルシフェラーゼ活性は、CBPを過剰発現させると、CBPを過剰発現させない場合に比べ、数倍に上昇した。 また、遺伝子の転写活性化にヒストンアセチルフェラーゼ(HAT)活性が共役するかを調べるため、HSGライゼートとCBP抗体の結合物を用いて、基質ヒストンへの[^3H]アセチルCoAの取込み、すなわちCBPのHAT活性を調べた。この結果、HSGライゼートとCBP抗体との結合物はライゼートの対照血清との結合物に比べ有意に高いHAT活性を示した。 以上より、HSG細胞にはcoactivatorであるCBPが発現し、本細胞の増殖や分化の際のレチノイン酸レセプターによる遺伝子の転写活性化に関与することが明らかになった。また、CBPはHAT活性を有したが、これにより標的遺伝子の転写活性化の際にクロマチン構造にゆらぎをひき起こす可能性が示唆された。
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