研究概要 |
本年度は、前年度にひきつづきヒト唾液腺細胞株(HSG)におけるレチノイン酸(RA)レセプターによる転写調節に関与するcofactorの検索を行った。coactivatorであるCREB(cAMP response element binding protein)-binding proteinすなわちCBPがcofactor complexの中心的役割を担うことは前年度に既に報告したので、本年度はその他のcoactivatorについて検索を行った。その結果、steroid receptor coactivator-1(SRC-1),p300/CBP-integrating protein(p/CIP)ならびにp300/CBP-associating factor(p/CAF)の発現がイムノブロット法によりそれぞれ明らかになった。またこのうちp/CIPとp/CAFにはヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)活性が認められた。また、レチノイン酸レセプター(RAR)の特異抗体による免疫沈降物もHAT活性を示したが、これは細胞内でRARに結合しているこれらcoactivatorによるものと推察された。現在、RARと結合しているcoactivator複合体の構成を免疫沈降-イムノブロット法により同定中である。 つぎに、私共がHSG細胞でクローニングした転写抑制因子COUP-TFIのRAR転写制御系への関与を調べるために、COUP-TFIをHSG細胞に一過的に導入しRARによる転写活性化への関与をレポータジーン法により検討した。この結果、COUP-TFIの導入によりRA依存性レポーター活性は顕著に抑制され、またこの抑制はCOUP-TFIのアンチセンスオリゴの導入により解除された。これらの結果はレポーター安定導入細胞を用いた実験でも同様であった。RAによる増殖抑制効果に対しては、COUP-TFIの導入はRA依存性[^3H]チミジンの取り込み抑制に対し有意に影響しなかったものの、アンチセンスオリゴの導入はこの抑制を解除、ないしは対照以上に取り込みを増加させた。これらよりCOUP-TFIの増殖抑制経路にはRARの転写活性化を抑制する間接的経路とともに直接にtransrepressする経路があることが示唆された。一方、corepressorのNooRとSMARTの発現を認めたので、COUP-TFIとこれらcorepressorとの複合体形成を現在検討中である。
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