近年細胞膜に対する考え方の流れに大きな変化が生まれ、流動モザイクモデルの出現に匹敵するような新しいモデルが提唱されている。それは細胞膜上に糖脂質とコレステロールの自己会合による細胞膜ドメインが存在し、さまざまなシグナル伝達タンパク質を局在化させることにより刺激応答の足場となるという「膜ドメイン説」である。特異な陥没構造として古くから電子顕微鏡により観察されてきたカベオラは代表的な膜ドメインである。またそのような特徴的な構造をもたない膜ドメインもいろいろな細胞で報告されている。膜ドメインは通常は細胞表層の細胞膜に存在し、膜タンパク質の中でも脂質修飾をもつタンパク質(グリコシルフォスファチジルイノシトールアンカー型タンパク質、GPI-anchored protein)などを局在化させている。一方膜ドメインの直下にあたる細胞質側の細胞膜の領域には種々の細胞内シグナル伝達タンパク質が集合することが確認されている。その結果として細胞外からの情報の入力は効率よく細胞の内側に伝達される。すなわち膜ドメインはタンパク質局在化の足場を提供することにより、細胞膜において外と内をつなぐ巨大な分子装置として機能することが明らかになりつつある。本研究では膜ドメインの生理的な役割を検討するためにIgG-Fc-receptorの架橋刺激におけるチロシンリン酸化反応の開始における膜ドメインの関与を検討した。またその結果をふまえてラット耳下腺分泌顆粒における膜ドメインの存在を検討した。
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