唾液腺癌に対しては、現在までに有効な化学療法は確立されておらず、新規の治療薬の開発が望まれている。多くの細胞増殖因子の受容体では、チロシンキナーゼ活性が認められており、その活性化が癌細胞の増殖に重要な役割を果たしている。唾液腺癌が、チロシンキナーゼを介した増殖様式を示す場合、チロシンキナーゼ阻害剤は、抗腫瘍剤となる可能性がある。マウス顎下腺では、酸性FGF(aFGF)の存在が確認されているため、ヒトレコンビナントaFGFとウシ脳由来のaFGFを用いて、マウス顎下腺癌YT細胞の増殖に対する影響を検討した結果、これらaFGFは、濃度依存的に癌細胞の増殖を促進することが明らかになった。さらに、ジメチルベンズアントラセン(DMBA)によって誘導されるマウス顎下腺発癌系において、ウシ脳由来aFGFを10週間にわたって皮下投与した場合も、aFGFにて顎下腺における癌の発生は有意に増加した。免疫組織化学染色、イムノブロット法、RT-PCR法を用いた検索で、aFGF、FGF受容体がマウス顎下腺顆粒管、未分化癌実質で検出された。各種合成チロシンキナーゼ阻害剤チルホスチンを用いて、YT細胞増殖への影響を検討したところ、チルホスチンAG17が最も強い抑制効果を示した。ヌードマウス移植腫瘍に対しても、AG17は腫瘍増殖抑制作用を示し、腫瘍細胞にアポトーシスを誘導した。以上より、マウス顎下腺癌の増殖は、aFGFのオートクライン、パラクライン機構にて促進されること、このような唾液腺癌では、チロシンキナーゼ阻害剤が有効な化学療法剤になることが示唆された。
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