ヒト口腔粘膜上皮組織における基底細胞の階層性を検討し、幹細胞を同定して、その動態を明らかにする目的で、低親和性神経成長因子受容体(75kd nerve growth factor low-affinity receptor、NGFR)を用いて研究を行った。横浜市立大学医学部口腔外科で採取されたヒト口腔粘膜を対象として、凍結標本では、抗ヒトNGFR抗体を用いた間接法によりFITC標識を行い、共焦点レーザー顕微鏡によってその蛍光強度を測定した。ホルマリン固定・パラフィン包埋組織では、マイクロウエーブ法を加えたストレプトアビジン法により、同抗体陽性細胞を同定して、その数・分布を検索した。同時にintegrinβ1、細胞増殖活性を示すMIB1、増殖抑制因子としてp53・p21Cip1などを免疫組織化学的手法にて、またアポトーシスをTUNEL法にて同定して、比較検討した。 検討の結果、抗NGFR抗体陽性細胞は、ヒト口腔粘膜基底細胞層にのみ存在し、強陽性細胞が数個連続して集簇して認められた。部位・組織構築により陽性細胞の分布は異なっていた。舌背部の粘膜上皮基底細胞においては、一次乳頭の乳頭部口腔側最浅部位に強陽性細胞が集簇するのに対し、二次乳頭では上皮脚の先端部に集簇していた。歯肉においては、強陽性細胞の集簇が、上皮脚先端部もしくは乳頭部口腔側最浅部位のいずれかに認められた。上皮脚の発達の悪い頬粘膜では、6-10細胞の強陽性細胞の集簇が周期的に存在していた。 上皮基底層の破壊と角化の亢進という相反する変化を示す口腔扁平苔癬の上皮組織においては、細胞増殖活性の上昇と伴に、p53・p21Cip1による細胞周期制御が起こり、アポトーシスの増加も認められた。抗NGFR抗体強陽性細胞の中には、MIB1陽性を示す細胞が少数認められ、同細胞の増殖活性が亢進していることが明らかになった。
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