研究成果は、1)急性口腔粘膜GVHD病変におけるサイトカインの役割と2)サイトカイン産生細胞を含めた免疫担当細胞の動態の2つが得られた。まず、病変におけるサイトカインの役割に関しては、病変初期にインターフェロン・ガンマ(IFN)と腫瘍壊死因子(TNF)のmRNA発現をRT-PCR法により確認した。サイトカイン発現は、粘膜上皮ケラチノサイト (KC)でのICAM-1染色性の発現時期と一致することが、連続凍結切片による検索により明らかとなった。これらの結果は、急性口腔粘膜GVHDの病変初期の大きな特徴を示した。さらに、ICAM-1はinducible moleculeであるため、IFNおよびTNFの産生により同分子の発現がKCで誘導されることが示唆された。ICAM-1の発現意義に関しては、Stamper-Woodruff binding assayにより、CD8陽性細胞の上皮親和性機構に深く関与することが明らかとなった。したがって、進行期での上皮破壊機構に直接関与する細胞傷害性T細胞の上皮内浸潤は、LFA-1/ICAM-1接着経路の利用していることが示唆された。 しかしながら、初期病変ではT細胞の浸潤が免疫組織的に明らかではない。とくに、ICAM-1の発現開始時には、マクロファージおよびNK細胞様細胞のごく軽度の浸潤しか認められない。in situ hybridizationによる検索では、RT-PCRにてサイトカイン産生および免疫組織化学的にKCでのICAM-1発現を認める初期病変において、IFNがNK細胞様細胞に、また、TNFがマクロファージに発現する傾向を認めた(未発表)。一方、口腔粘膜GVHDの病変発症に関与する免疫担当細胞を検索する目的で、急性GVHD脾細胞を粘膜に投与する局所GVHDモデルを作製した。その結果、マクロファージおよびNK細胞を豊富に含有する脾細胞では、GVHD病変を誘導することができたが、CD8のみを単離して投与した群では、顕著な病変を誘導できなかった。 以上の結果から、急性口腔粘膜GVHDの病変発症には、IFNおよびTNFを産生するNK細胞様細胞およびマクロファージが重要であることが明らかとなった。それらのサイトカイン産生により、LFA-1/ICAM-1接着経路を利用した細胞傷害性T細胞の上皮親和性機構が活性化され、上皮破壊が進行すると考えられた。
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