根管治療の際、根管内細菌が根尖孔から押し出され、菌血症を生じうることが報告されている。しかし根尖病巣の存在自体が菌血症を引き起こす可能性を調べた研究は少ない。本研究では、実験的に根尖病巣を作成し、根管内に接種する細菌種と根尖歯周組織の破壊程度、および菌血症の発症頻度との関係を明らかにすることを目的として動物実験を行った。また歯髄への細菌感染経路の1つとして、アナコレーシスによる血行性感染が示唆されているが、本研究では根尖病巣由来の菌血症を検出する一助として、根尖病巣を作成した以外の被験歯歯髄に無菌的な損傷を加え、根尖病巣から損傷歯髄に血行性感染が成立する可能性も合わせて検討した。 実験動物としてネコ10匹を用い、被験歯97歯のうち37歯に根尖病巣の作成を試みた。根管内にはStr.sanguis、S.aureus、EnterococcusおよびP.gingivalisの4菌種を、単独あるいは2種類を組み合わせて接種した。また根尖病巣作成と同時あるいは3週後に、根尖病巣を作成した以外の49歯の歯髄に、熱刺激あるいはリーマー挿入によって無菌的な損傷を与えた。11歯は未処置のまま正常歯髄のコントロールとした。術前および根尖病巣作成後、3、5週目に末梢血を採血し、また5週後には損傷歯髄の根管内容物を採取した後、下顎骨を摘出してX線写真を撮影した。 その結果、単一感染群では11歯中4歯に、混合感染群では全例に根尖部透過像が観察された。しかし末梢血および損傷歯髄の細菌培養検査はすべて陰性であり、今回の実験系では根尖病巣由来の菌血症および血行性感染は認められなかった。 本研究では根尖病巣由来の菌血症を検出することはできなかったが、今後は細菌、エンドトキシン、サイトカインなどが、病巣局所から血流中に放出された場合に生じるとされる血小板凝集や高脂血症などの変化が、歯周病の場合と同様に、根尖病巣を有する個体においても認められるのかどうかを検討していきたい。
|