本研究では、象牙質試片の歯髄側に開口した象牙細管から生理食塩水を加圧しながら供給することで、歯髄内圧を可及的に再現した露出歯根象牙質のモデルを作製し、試片の歯表面側でStreptococcus mutansおよびLactobacillus caseiによる最長14日間の混合培養を行った。そして培養期間中の歯表面側の培地のpH測定ならびに培養後の試片を表層プラークと共に処理することで得た光顕用切片に菌体内多糖を特異的に検出する染色(PTSP法染色)を行うことにより、細管内圧が細菌の象牙細管内への侵入にどう影響を及ぼすのかを解析した結果、以下の所見を得た。1.S.mutansおよびL.casei各々の単独培養群では5.5前後および5.6前後のpH値を終始維持したのに対して、これらの細菌種の混合培養群では最低5.1前後のpH値を維持した。2.混合培養した試片において、各々を単独培養した場合よりもPTSP法染色陽性の細菌が侵入している細管数は明らかに多かったものの、その侵入深度は単独培養群とほぼ同程度であり10μm前後であった。また、この傾向は実験開始前に象牙質面上の細管を開口させた場合にのみ認められたが、歯髄側からの圧力の大小による有意な差は認められなかった。3.混合培養した試片に付着するプラークの表面には肉眼的にも金平糖様の多数の隆起物が確認できたが、光顕像においても試片表面に堆積した厚さ約300〜600μmのプラークの表層で大小多数のほぼ円形をした細菌集落として観察された。またプラーク内には染色性の異なる領域が不定形もしくは卵円形に入り組むような形で観察され、その領域の境界部で細菌の存在が粗になる傾向が認められた。
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