我々はin vitroおよびin situにおいて経時的な観察が可能である齲蝕誘発モデルを作製し、歯根面齲蝕の発症過程における歯質の構造変化、特定細菌の局在および糖質代謝という観点から齲蝕およびプラーク内での細菌の動態を検索した。 In vitroの実験系では象牙質試片の歯髄側に開口した象牙細管から生理食塩水を加圧しながら供給することで歯髄内圧を可及的に再現した露出歯根象牙質のモデルを作製し、各種齲蝕原性菌による細菌培養を行った。その結果、Streptococcus mutansおよびLactobacillus caseiによる単独培養およびこれら細菌種による混合培養では、培養に使われた培地のpH値が単独培養のそれより低く、光顕観察において細菌侵入が認められた象牙細管数は混合培養群の方が有意に多かった。また菌体内多糖を特異的に検出するPTSP法染色により、培地と直接触れることのできないプラーク深層あるいは集落内部に存在する細菌ならびに細管開口部に侵入した細菌の大部分において多量の菌体内多糖が存在することを明らかにした。 一方、in situの実験において長期間(12ヶ月)口腔内に係留してもセメント質直下の象牙質は破壊されなかったが、象牙質面を強制的に露出させ短期間(2ヶ月)係留した試片では象牙細管の拡張および大量の細菌侵入が認められ、これらの結果の相違をもたらした要因として外套象牙質の存在が示唆された。またコンピュータによる画像処理技術により、PTSP陽性細菌群の局在ならびに存在比率が経時的に進行する歯質破壊において動的に変化することが明らかとなった。
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