研究概要 |
本研究では、不可逆性歯髄炎の病態成立における歯髄組織破壊機構を解明することを目的とし、露髄部の細菌-宿主反応に焦点をあて、歯髄組織の変化や細菌侵襲の実態を免疫組織学的に検討した。歯髄に到達するう蝕を有し臨床症状から不可逆性歯髄炎と判定され、且つ智歯等の理由から臨床上抜歯の適応と診断されたヒト抜去歯のうち、露髄部付近に細菌侵入が認められた5歯について、われわれが作製した7種のう蝕関連菌に対する抗血清を用いた免疫染色にて侵入細菌を同定したところ、S.mutans,L.plantarum,P.microsが高頻度に検出された。また、歯髄側においてはプロスタグランディンE2の役割を検討するため、その産生のkey enzymeとされているシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)の発現について検索したところ、炎症細胞が集積しているところでは主にマクロファージにCOX-2発現が認められ、集積部の周辺ではマクロファージだけでなく線維芽細胞にもその発現が認められた。正常歯髄では、COX-2発現はほとんど認められなかった。これらの結果より、マクロファージに加え歯髄組織構成細胞である歯髄線維芽細胞も不可逆性歯髄炎の病態形成に関与していることが示唆された。これらの知見を基に、歯髄炎の可逆・不可逆の境界をおりなす病態変化の本態を捉えるべく、露髄部付近に高頻度に認められた上記の細菌種に対する歯髄組織、特に歯髄線維芽細胞の反応性をin vitroで検討するほか、炎症の程度(T細胞/B細胞比など)やケモカイン(MCP-1など)と不可逆性変化との関係についても検討を加える予定である。
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