研究概要 |
根尖病変は細菌感染が原因となり歯周組織の炎症が起こり、特異的あるいは非特異的な免疫応答の結果、歯槽骨破壊像を呈する炎症性病変を形成していく疾患である。老化に伴い免疫担当細胞、あるいは免疫グロブリンとの反応や組織の治癒能力が低下する。特にT細胞に依存した細胞性免疫、体液性免疫能が低下することが報告されている。その結果、根尖部病変の成立、進展にも影響し、加齢は病態に関与するひとつの因子となることが推察される。そこで今回我々は、老化が根尖部歯周組織の病態に及ぼす影響について免疫組織化学的に検索し比較検討した。 実験には2および16ヶ月齢のWistar系雄性ラットをそれぞれ18匹づつ使用した。実験的根尖部病変を惹起させるために、ラットの下顎第一臼歯を抜髄し、根管内に滅菌液体培地に溶解した自家糞を挿入した。根管処置後4、7、14および28日後、4%パラフォルムアルデヒド溶液で灌流固定を行った。下顎骨を摘出し、さらに1日間固定後、2ヶ月間低温脱灰を行った。その後、通法に従ってパラフィン包埋し、厚さ5μmの連続切片を作製した。ED1、ED2およびOX6の3種類の抗体を用い、酵素抗体法による間接免疫組織染色を行った。16ヶ月齢のラットでは根尖歯周組織の炎症反応は、2ヶ月齢よりも軽度な傾向を示し彌慢性で治癒は遅延する傾向を示した。(1)ED1陽性細胞の局在:16ヶ月齢では、術後4,7日までは根尖部にED1陽性細胞が多く観察された。数は少ないが歯根膜の歯頚部まで、陽性細胞が観察された。その後、14,28日では数は減少傾向を示したが、陽性細胞の局在と種類に違いは認められなかった。これに対し、2ヶ月齢では、術後7日で、根尖部ではED1陽性細胞が多く認められたが、歯根膜の歯頚部よりでは少数の細胞のみ陽性反応を示した。28日ではED1陽性細胞は減少の傾向を示した。(2)ED2およびOX6陽性細胞の局在:16ヶ月齢では、術後4,7、14日まで根尖部における陽性細胞の分布と数には殆ど変動を示さなかったが、28日において根尖および歯根中央部歯根膜においてやや増加の傾向を示した。これに対し、2ヶ月齢では、術後7日と28日と間で顕著な違いは認められなかった。これらの結果は、2ヶ月齢ラットでは術後28日目にはED1陽性細胞が減少したが、16ヶ月齢ラットでは、術後28日目になってもED1,OX6陽性細胞が依然として存在したことを示している。 以上のことから、16ヶ月齢ラットで慢性炎症が持続する原因のひとつとして、大食細胞、リンパ球、形質細胞のような免疫担当細胞の動態が加齢により変動することが考えられる。
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