研究概要 |
歯内治療では,根管消毒薬として昔から蛋白変性作用による消毒効果を期待した薬が多く使われており,根管内は生体の中でも変性した自己蛋白が長期に貯留しやすい場所となっている。薬剤によっては、薬剤アレルギーや薬剤誘発性自己免疫疾患の存在も知られており、歯内治療に使用する薬剤も免疫学的な為害性を検討する必要がある。そこで我々は,通常臨床において根管内に用いられる薬剤によって変性した自己組織が新たな抗原性を獲得する可能性を検討し,さらに新抗原に対して産生された免疫グロブリンの種類を検討した。 今回,変性に用いた薬剤は,ヨードチンキ,ホルモクレゾール,ホルマリングアヤコール,ホルマリン,クレゾールおよびグアヤコールで、それぞれJ、FC、FG、F、C、Gと賂し、シンジェネイックな血清に対してv/vで2%となるよう薬剤を加え,37℃で1週間、可及的に撹拌しながら作用させたものを使用した. 結果は,次のとおりである. 1)6つの変性抗原のうちJ-SS,FC-SSあるいはFC-SS感作抗血清が,ホモロガス抗原に対して著名な抗体価の上昇を示した.すなわちJやFC,FGによる変性でシンジェネイックな血清に免疫原性を与える事ができた.さらにFC-SSあるいはFC-SSの免疫原性の獲得のためにはホルマリンとクレゾールあるいはグアヤコールの協同作用が必須条件である事が示唆された. 2)J-SS,FC-SSあるいはFG-SSに対する抗体はいずれもnativeな血清に対しては交叉反応を示さなかった.言い換えればnativeな血清に対する免疫学的トレランスは,J-SS,FC-SSあるいはFG-SSの免疫後,終結しなかった.
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