平成11年度、我々は、ダール食塩感受性高血圧発症ラット(DSラット)を用いた実験で、高食塩食摂取は重篤な高血圧症発症のみならずCa代謝異常をもひきおこし、これにより下顎骨の骨量減少が生じる可能性があることを報告した。 平成12年度、我々は下顎骨の非脱灰研磨切片をさらに20μmまで研磨、骨形態計測を行い、骨石灰化面・類骨面・吸収面・破骨細胞数および骨石灰化速度を求めた。骨形態計測により、実験群において、実験8週目で破骨細胞による骨吸収量の増加と骨芽細胞による骨形成量の低下が認められ、その結果骨量の減少が生じた可能性が示唆された。また実験22週目においては、骨吸収量、骨形成量ともに実験群と対照群との間に有意な差は認められず、骨代謝のバランスは正常に戻ったということが示唆された。 次に、我々は高血圧自然発症モデルであるSHRラットとそのoriginであるWKYラットとを用いて、本態性高血圧症が脛骨と下顎骨骨代謝に与える影響を検索した。結果、SHRラットでは高血圧発症後にCa代謝異常が惹起され、それに伴う脛骨骨量減少がおこり、それは主に海綿骨に生じるものと考えられた。一方、海綿骨の少ない下顎骨においては、骨量減少を引き起こすまでには至らなかった可能性が示唆された。 以上により、ラット高血圧症発症モデルにおいては高血圧発症後にCa代謝異常が惹起され、それに伴う骨量減少がおこる可能性が示唆された。また、それは主に海綿骨に生じるため、海綿骨の少ないラット下顎骨においては骨量減少が生じにくいが、高血圧発症期間の長期化、高食塩摂取、咬合力の影響除去などの条件によっては、骨量が減少する可能性も示唆された。
|