日常の歯科臨床において歯冠補綴物の脱離にしばしば遭遇する。特に残存歯質の補強、破折防止、理想的な支台歯形態の付与などの目的で施される鋳造コアーからの脱離がほとんどを占めている。原因に対する力学的な検討は多いが接着性からのものは無い。そこで歯冠部象牙質と歯根部象牙質との接着性について検討を行った。 被着体は本学付属歯科病院にて抜歯したもののうち、齲蝕が無く、歯冠修復処置が施されていない健全歯とした。抜歯後、歯肉および歯根膜を除去し、冷凍保存したものを使用直前に自然解凍し、実験に供した。注水下でエアータービンにて歯冠と歯根に分割し、それぞれを即時重合レジンに包埋後、象牙質を露出し、#1000の耐水紙で研磨、被着面とした。その被着面に接着性レジンセメントを接着させ、圧縮せん断接着強さの測定を行うと同時に、接着界面の様子を電子顕微鏡にて観察した。測定は37℃水中に24時間保存した後に行った。接着用レジンセメントとしてはスーパーボンドC&B(SB)、パナビアフルオロセメント(PF)、ビスタイトレジンセメント(BS)、インパーバデュアルセット(ID)を用いた。試料は各々5個とした。 圧縮せん断接着強さはSBでは歯冠、歯根ともに平均約36MPaと高い値を示したがPF、BS、IDでは歯冠象牙質で21〜22MPa、歯根象牙質では11〜15MPaであり、歯冠に対して1/2〜2/3程度と低い値であった。 接着界面の観察では樹脂含浸層と思われる構造物には全てのレジンセメントにおいてほとんど変化が認められなかった。しかし、レジンタグを観察してみると全てのレジンセメントにおいて歯冠象牙質に長く、数多く存在していた。 これらの結果から象牙質とレジンセメントとの接着性においては歯冠象牙質の方が高いこと、レジンタグが補助的な役割を果たしていること、また、歯冠と歯根の構造の違いが関与していることが示された。
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