研究概要 |
本研究の目的は,咬筋組織血流量と咬筋のエネルギー状態の関係を明らかにすることである.この目的のために,以下のステップで研究を行った. 1.31P-Chemical Shift Imaging(CSI)検査の測定法の確立. ATP,クレアチンリン酸などの高エネルギーリン酸化合物のスペクトルを得るMagnetic resonance spectroscopyの方法の一つとして,31P-CSIを導入した.その結果,咬筋浅層と深層を分けたエネルギー代謝の測定が可能となった.また,それぞれのエネルギー状態は異なることが示され,咬筋浅層と深層は,別個に分析する必要性が示唆された. 2.SO_2・Hb量モニター(バイオメディカルサイエンス社・PSA・IIIN)による組織血流量測定法の確立 健常者に関する検討の結果,組織血流量のパラメータとしては総ヘモグロビン量およびその変動率や変動時間を比較評価することとした.また,咬筋の血流量は,姿勢,頭位により変動することが明らかになった.特に前傾や同側への側傾斜により,総ヘモグロビン量は増加することがわかり,測定時の姿勢や頭位を一定にする必要性が明らかになった. 3.組織血流量測定時の負荷条件の検討 最大咬みしめ,ガム咀嚼ほか複数の条件の中から,10kgfで20秒間の咬みしめが血流の変動効果と被験者の負担の両面からみて適当と考えられた. 4.健常者および顎関節症患者での測定 咬筋のエネルギー代謝については,顎関節症患者でクレアチンリン酸の低下,すなわちエネルギーレベルの低下が見られたのに対し,血流量に関しては一定の傾向を認めるまでには至らなかった.この理由としては,組織血流量では個人間の差が大きいのに対し,被験者数が不足していたことが考えられた.そのため,本研究で確立した測定系を用いて,今後,さらに被験者数を増やして検討する必要性が認められた.
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