研究概要 |
サイクリンD1は頭頚部の扁平上皮癌を含む多くの悪性腫瘍で遺伝子増幅,過剰発現が報告されているが,当科で樹立した7つの口腔扁平上皮癌細胞株を調べたところ,3株ではD1の高発現がみられたが,そのホモログであるD2の発現は低下していた.そしてこれらの株ではRbおよびそのファミリーの1つであるp107が高度にリン酸化されていた.ところが,残りの4株においてはD1の発現は逆に低下しており,代わりにD2の高発現がみられ,さらにp107の高リン酸化バンドは認められなかった.このことより,サイクリンD1の発現レベルとRb,p107のリン酸化に相関がみられ,2つの細胞群でG1期の増殖制御に差が認められることが明らかになった.一方,サイクリンEについて,最近そのホモログであるE2がクローニングされ,従来のものはE1と呼ばれている.E2もE1と同様にCdk2を活性化し,その発現,活性化はG1/S期にピークを迎える.そこで上記の口腔癌細胞株を調べたところ,いずれの細胞株でもE2は高度に発現が認められたが,E1の発現は2株の細胞(HSC-2,HSC-3)で極めて低かった.そこでサイクリンE1,E2のN端cDANの約1KbをPCRによりクローニングし,哺乳類細胞で高発現可能なベクターにアンチセンス方向に組み込んだ.これらをHOC313,HSC-2にtransfectionしてcolony formation assayを行い,それぞれのアンチセンスの増殖抑制効果を調べた.その結果,サイクリンE1に関しては予想どうりその発現に依存した増殖抑制効果がみられた.ところがサイクリンE2に関しては予想に反しどちらの細胞株においてもアンチセンスによる増殖抑制がみられなかった.現在,アンチセンスが確かにサイクリンE2の発現を抑制したにもかかわらず,増殖抑制効果を示さなかったのか,またE2のアンチセンスによりE1が相補的に発現した可能性がないかどうか検討中である.
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