研究概要 |
転写因子NF-κBと、癌細胞の浸潤を促進するプロテアーゼを分子標的として、口腔癌の浸潤・転移を抑制できる可能性を検討した。そのために以下のストラテジーを試みた。 (1)NF-κB活性化を抑制する因子・薬剤を調べる途上で、インターロイキン4(IL-4)とデキサメサゾン(DEX)が口腔癌細胞のを抑制することを見出した。同時に、IL-4とDEXは、口腔癌細胞の浸潤促進プロテアーゼMMP-9,uPAの発現と活性化を抑制した。IL-4とDEXは、NF-κBを抑制することによってMMP-9とuPAの発現を抑制することがわかった。 (2)NF-κBのインヒビターであるIκBαのドミナントネガテイブ(DN)遺伝子発現ベクターを作製した。口腔癌細胞(扁平上皮癌と腺様嚢胞癌)では、恒常的にNF-κBが活性化され、NF-κBが核に局在し、MMP-9とuPAの発現増強がみられた。IκBαDN遺伝子発現ベクターの導入により、NF-κBは核から細胞質に移行し、NF-κBの不活化がみられた。同時にMMP-9とuPAの発現も抑制されたが、腺様嚢胞癌細胞ではこれに伴って、抗癌剤シスプラチンに対する感受性が増した。 (3)IκBαキナーゼ(IKKキナーゼ)の遺伝子発現ベクターとIKKキナーゼのドミナントネガテイブ(DN)遺伝子発現ベクターを作製した。IKKキナーゼ発現ベクターを口腔癌細胞株に導入し、IKK高発現株のクローニングを行なっている。IKK高発現株はNF-κB活性化が亢進し、高浸潤・高転移能を有すると考えられるため、IKKDN遺伝子ベクターによってNF-κBの抑制を試みる研究を現在進行中である。 以上の結果から、NF-κBは口腔癌の分子標的として有用であることがわかった。NF-κBを抑制する方法として、IκBαDN遺伝子の使用は遺伝子治療の道具として効果的と思われた。また、IL-4とDEXのような既存の薬剤を組み合わせてNF-κBを標的にできる可能性を見出した。
|