転写因子NF-κBと、癌細胞の浸潤を促進するプロテアーゼを分子標的として、口腔癌の浸潤・転移を抑制できる可能性を検討した。口腔癌細胞のMMP-9発現を抑制する方法を探索し、癌細胞の転写因子NF-κBを抑制することの有用性を研究し、以下の研究結果を得た。 (1)九州大学歯学部附属病院第二口腔外科を受診した口腔扁平上皮癌患者57例の治療前生検材料の抽出タンパク質中のMMP-9のゼラチナーゼ活性をゼラチンザイモグラフィーにて解析した。MMP-9のゼラチナーゼ活性は口腔癌の浸潤様式とよく相関していた。口腔扁平上皮癌の産生するMMP-2およびMMP-9は、癌の浸潤・転移に深く関わると結論づけられた。 (2)NF-κB活性化を抑制する因子・薬剤を調べる途上で、インターロイキン4(IL-4)とデキサメサゾン(DEX)が口腔癌細胞のNF-κBを抑制することを見出した。同時に、IL-4とDEXは、口腔癌細胞のMMP-9の発現と活性化を抑制した。IL-4とDEXは、NF-κBを抑制することによってMMP-9の発現を阻止することがわかった。 (3)正常ヒト線維芽細胞を長期継代するとNF-κBが分解された。正常ヒト線維芽細胞は、老化に伴い、NF-κB分解酵素が蓄積されることが示唆された。このことは、癌細胞が継代を繰り返してもNF-κBが変化なく維持されていることと対照的であり、NF-κBを分子標的とする戦略の傍証となるかもしれない。 (4)NF-κBのインヒビターであるIκBαのドミナントネガテイブ(DN)遺伝子発現ベクターとIκBαキナーゼ(IKKキナーゼ)のドミナントネガテイブ(DN)遺伝子発現ベクターを作製した。各ベクターを口腔癌細胞株に導入し、NF-κBの抑制を試みる研究を現在進行中である。 以上の結果から、NF-κBは口腔癌の分子標的として有用であることがわかった。
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