1)細胞集塊形成とEカドヘリン、カテニン発現量との関連性 poly(HEMA)coating Plate浮遊培養により舌扁平上皮癌細胞MOK101を細胞集塊を形成させ、Westem blot法により経時的にEカドヘリン発現量を検索したところ、細胞集塊がcompactになるに従って0.2%TritonX-100抽出および1%SDS抽出(0.2%Triton X-100 soluble fractionとinsoluble fractionを含む)の両方でEカドヘリン量は増加した。さらに細胞集塊形成の過程でEカドヘリン抗体、Pカドヘリン抗体またはβ1インテグリン抗体(ともにfunctional blocking抗体)を添加したところ、Eカドヘリン抗体により集塊形成が阻害された。細胞集塊形成にEカドヘリンは関与しているものと考えられる。 2)細胞分散過程におけるβカテニンチロシン残基のリン酸化の検索 ラミニン5 rich matrix(口腔扁平上皮癌細胞株SCC25の細胞外基質)またはI型コラーゲン上にMOK101の細胞集塊を置いたところ、いずれにおいても細胞集塊がmonolayerになったが、前者のみで著明な細胞分散を示した。このモデルを用いて細胞分散とβカテニンチロシン残基のリン酸化の関連を検索したところ、両者でリン酸化を認めた。細胞集塊からmonolayerへの移行過程で細胞同士のrearrangementが起こる際に、βカテニンリン酸化によるEカドヘリン機能のon/offが恒常的に生じているものと考えられる。 3)どのインテグリンサブユニットがラミニン5による細胞分散を仲介しているか? MOK101の細胞集塊をラミニン5rich matrix上へ移す前にα2、α3、α6、β1インテグリンに対するfunctional blocking抗体により処理したところ、α3またはβ1インテグリンに対する抗体により細胞分散が抑制された。このことより、ラミニン5により惹起される細胞分散は、α3β1インテグリンを介したin-outシグナルにより細胞間接着の解除と細胞運動を活発化により生じるものと考えられた。 4)細胞集塊のインテグリン活性化により細胞間接着が解除されるか? さらに抗α3β1インテグリン活性化により細胞間接着が解除されることを証明するため、細胞集塊をα3、β1インテグリン抗体で処理した後、続いて2次抗体を反応させて各インテグリンサブユニットをcross linkingさせ、細胞間接着に変化を生じるかを検索した。2次抗体処理後に細胞膜上に小突起の形成を認めたが、細胞集塊の崩壊は観察されなかった。細胞表面の小突起形成は、細胞集塊をラミニン5上に置いた際のrearrangementの初期にも観察されたことより、3次元的な細胞集塊は2次元のmonolayerよりも細胞間接着面積が大きく、強固に接着しているため、今回の実験法によるcross linking反応は細胞間接着を解除するには不十分であった可能性がある。
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