poly-HEMA浮遊培養により口腔扁平上皮癌細胞株MOK1O1の細胞集塊を形成させたところ、細胞集塊がcompactになるに従ってE-カドヘリン量が増加した。さらに細胞集塊形成がE-カドヘリン抗体により阻害されたことより、細胞集塊形成にE-カドヘリンが関与することがわかった。次に、MOK1O1の細胞集塊をラミニン5 rich matrixまたはI型コラーゲン上に置いたところ、いずれの基質においても細胞集塊はmonolayerにrearrangementしたが、前者のみで著明な細胞分散が生じた。また細胞間接着の解除に伴って、0.2% Triton X-100で抽出される非機能層のβカテニン量が増加した。次にMOK101の細胞集塊をラミニン5上へ移す前にα2、α3、α6、β1インテグリンに対するfunction blocking抗体により処理したところ、α3またはβ1インテグリン抗体により細胞分散が抑制された。このことより、ラミニン5上で見られる細胞分散は、α3β1インテグリンを介していることがわかった。そこで、抗α3β1インテグリン活性化により細胞間接着が解除されることを証明するため、α3またはβ1インテグリンサブユニットのcross linkを行った。この結果、細胞集塊の崩壊は観察されなかったが、ラミニン5上でのrearrangementの初期にも観察された細胞膜表面の小突起形成を認めた。 以上の研究結果は、インテグリンからのシグナルが細胞間接着を調整し、細胞集塊のrearrangementさらに細胞分散を惹起することを示している。しかし、今回の実験では口腔扁平上皮癌細胞が分散する過程において、細胞自体が産生する細胞増殖因子の影響や、細胞運動能の上昇による機械的な細胞間接着解除の可能性を否定できない。この点にういてさらに検討が必要である。
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