他領域の悪性腫瘍では、第21番染色体のLOHに関して多くの報告がなされているのにもかかわらず、口腔癌に関する報告は現在のところ全く行われていない。従って、本研究で口腔癌における同染色体上の未知癌抑制遺伝子の局在を明らかにすれば、遺伝子単離のための有力なデータが得られる。本研究では、口腔扁平上皮癌症例(n=52)において、ヒト第21番染色体長腕(21q)上のヘテロ接合性消失(Loss 1f heterozygosity;LOH)の状況と、最近21q11.2〜21.1で同定された新規癌抑制遺伝子ANA(Abundant in Neuroepithelium Area)のmRNAの発現レベルに対してRT-PCR法を応用して検索した。その結果、(1)50症例中29症例(56.8%)に第21番染色体長腕上のANA遺伝子近傍において少なくとも一つの領域のLOHを認めた、(2)染色体座位21q11.1(D21S369領域、D21S236領域)において、各々D21S369(30%)、D21S236(31.2%)の共通乏失領域と思われる高頻度LOHが認められた。これらは、ANA遺伝子に対して、セントロメア側領域に位置していた、(3)ANA遺伝子に対してテロメア側領域に位置する染色体座位21q21(D21S1256領域)のLOHは14%と低率であった、(4)PCR-SSCP法およびdirect sequencing法により、exon 2およびexon 5にpolymorphismがみられた、(5)検索した52例中一例の腫瘍DNAにcodon 25においてGAG→GCGの点突然変異がみられ、これに伴いアミノ酸がglutamic acidからalanineに置換していた。さらに、ANA遺伝子座位に対するmicrosatellite markerとして用いたD21S1433領域において、LOHも検出されこの症例においては、ANA遺伝子の2hit変異と思われる異常が同定された。よって、21q上のANA遺伝子領域近傍には少なくとも2種類の未知癌抑制遺伝子が存在することが判明した。また、早期癌よりも進行癌でANA遺伝子機能の低下・喪失が臨床指標と比較することで認められた。本遺伝子が口腔扁平貞観の発生過程に深く関与している可能性が強く示唆された。
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