研究概要 |
顎関節症は臨床的に女性に多く、筋痛の病態生理に咀嚼筋虚血が挙げられている。女性は男性よりヘモグロビン(Hb)量やヘマトクリット値が有意に低いが、骨格筋のHb動態(組織酸素飽和度StO_2、酸化(OX)Hb、還元(deOX)Hbおよび総(T)Hb)の性差は明らかでない。目的:下顎安静時の咬筋におけるHb動態に関する性差と、顎関節症患者の筋痛側と対照側の差を検討し、筋痛病態解明の一助とする。方法:3波長2受光式近赤外線スペクトロスコピーを用い、第1実験は健常成人ボランテイア(男女:20名,50%比)を対象に、その性差を研究した(サンプリング;1Hz、60データを積算)。第2実験では片側に咬筋痛を強く訴える女性顎関節症患者(10名)を対象に、有痛側と対照側の比較を施行した。本実験では2台の機器で左右側を同時にそれぞれ機器を交換して計測した(サンプリング;1Hz、60データ×2=120データを積算)。結果:第1実験では男性におけるOXHb、deOXHb、THbおよびStO_2の平均値は21761、6981、28743および4554であった。女性のこれらは10521、3324、13846および4578であり、StO_2値以外は有意に男性の方が女性より高値であった。第2実験の中央値はOXHb(有痛側:24780、対照側:23031)、deOXHb(有痛側:9996、対照側:7670)、THb(有痛側:32582、対照側:30364)およびStO_2(有痛側:8998、対照側9245)で、DeOXHbは有意に有痛側が高値を示し、StO_2は有意に小さな値であった。結論:これらの結果は、咀嚼という男女共に等しい運動においても、女性の方が早期に筋疲労を生じる可能性があり、かつ、有痛筋では酸素消費状態が亢進している可能性が示唆された。
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