研究概要 |
従来、顎関節症は炎症性症状を欠く疾患といわれていた。しかし、近年、顎関節内視鏡による観察や組織学的検索から、様々な炎症性変化が起きていることが明らかとなってきた。顎関節症患者の滑膜組織では炎症性細胞の浸潤が観察され、関節滑液中では、TNF-α,IL-1β,IL-6等の炎症性cytokineが上昇していることが報告されている。本年度申請では、顎関節症患者より摘出したの滑膜組織より分離培養をしたヒト顎関節滑膜細胞にTNF-αを作用させて、chemokineであるIL-8,macrophage chemoattractant protein-1(MCP-1)の産生を調べた。 <方法>Confluent stageのヒト顎関節滑膜細胞にTNF-αを作用させ、ELISA法および免疫染色法にてIL-8,MCP-1を測定し、RT-PCR法にて各々の遺伝子発現を検索した。 <結果及び考察>ヒト顎関節滑膜細胞にTNF-αを作用させ、培養上清中のIL-8,MCP-1を測定したところ、TNF-α作用濃度および作用時間に応じてIL-8およびMCP-1産生は有意に上昇し、mRNA量はcontrolに比べて増加した。免疫染色法を行ったところ、TNF-α刺激を行った細胞では、IL-8,MCP-1が強く染色される細胞が認められたが、controlではIL-8もMCP-1も染色されなかった。また、今回使用した培養ヒト顎関節滑膜細胞について各種細胞表層抗原の染色を行ったところ、線維芽細胞様細胞マーカー抗体、ビメンチン抗体では強く染色されたが、マクロファージ、樹状細胞様細胞マーカー抗体での染色は認められなかった。以上の結果から、今回使用したヒト顎関節滑膜細胞は滑膜線維芽細胞様細胞であることが示唆された。また、顎関節症患者の滑液中で上昇しているTNF-αの刺激により、滑膜細胞はIL-8およびMCP-1の産生を増加することから、炎症性細胞が浸潤することが示唆された。
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