口腔粘膜上皮は、子宮膣部の重層扁平上皮と同調した性ステロイドによる周期性変化を示すことが知られている。この口腔粘膜上皮に由来する唾液腺組織およびエナメル器には性ステロイドレセプターが発現しており、多形性腺腫、腺様嚢胞癌や粘表皮癌およびエナメル上皮腫にエストロゲン依存性を示唆し得る腫瘍の存在を先に確認している。 そこで、口腔粘膜癌の発症と増殖に内分泌環境が関与するか否かを明らかにする目的で、口腔扁平上皮癌45例の生検パラフィン包埋材料を用い、エストロゲン(ER)とプロゲステロン受容体(PgR)およびエストロゲン調節蛋白(EPR)の発現を免疫組織化学的に検索した。口腔粘膜の重層扁平上皮では、傍基底細胞並びに棘細胞層に散在性にERとPgR陽性細胞が関され、さらにEPRの発現が観察された。口腔扁平上皮癌では、ERおよびPgRは共に間質結合組織に接する癌胞巣辺縁の腫瘍細胞に陽性所見が観察された。今回検索した症例では、いずれも性ステロイド受容体の陽性細胞を認めたが、高率の陽性細胞比率(陽性細胞比率から10%cut off levelによる評価)を示すものは少なく、陽性例は男性1例、女性2例にすぎなかった。しかしながら、これらの陽性例は、エストロゲン依存性癌である可能性が示唆される。現在、ヒトERcDNAからRNA probe作成を行っており、次年度は、口腔粘膜癌に性ホルモン依存性腫瘍の存在の有無を明確にする目的で、in situ hybridization法を用いてERmRNAの発現の有無を解析することを予定している。
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