口腔扁平上皮癌(SCC)のパラフィン包埋材料を用い、エストロゲン(ER)及びプロゲステロン受容体蛋白(PgR)の発現を免疫組織化学的に検索した。検索対象は、口腔粘膜癌103例(男性60例、女性43例)で、生検時の年齢は31〜89歳であり、平均62.8歳であった。原発部位としては、舌癌が34例、歯肉癌が27例、頬粘膜癌が6例、口腔底癌が8例、上顎洞癌が11例と口蓋癌が7例であった。免疫組織化学的検索で、ERは103例中54(52.4%)症例に陽性反応が観察された。ER陽性所見は、陽性コントロールとして用いた乳癌組織の結果と一致して、腫瘍細胞核に検出された。ER陽性例としては、腫瘍細胞全体に対する陽性細胞数の割合を計測し、陽性所見が10%以上占めるものを陽性症例とした。その結果、17例が10-50%の陽性反応を示し、37例では、50%以上のER陽性細胞が認められた。残りの42例では陽性細胞を全く認めず、7症例はER陽性細胞核が10%以下であった。PgRの免疫染色所見では陽性例が少なく、ER陽性を示した54例のSCCの内、腫瘍細胞核にPgRの陽性反応を示したものは10例(9.7%)のみであった。このPgR陽性例は9例が高分化型のSCCで、1例は中分化型であった。免疫組織化学的にER陽性を示した症例では、RT-PCR法による検索で、いずれも腫瘍組織内にERmRNAの存在が確認された。これらの結果から、口腔粘膜癌の腫瘍発生と増殖に乳癌と同様のエストロゲン依存性の機構を有することが示唆され、その治療に内分泌療法の臨床応用が期待される。今後、ER陽性と陰性例において予後の相違を明確にすることが必要性とされる。
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