昨年は健常者と高齢者の唾液を採取し、ES寒天培地と6μg/mlバンコマイシン(VCM)添加ES寒天培地を用いて腸球菌とVCM耐性腸球菌(VPE)の検索を行った。本年は、大阪、京都および兵庫県内の総合病の協力を得て、バンコマイシン投与中あるいは投与直後の患者8名と健常者12名から上記の方法でVREの検索を行った。その結果、バンコマイシン投与群でもVREは検出されなかった。最近、ES寒天培地の腸球菌選択性が問題視されているので、分離したエスタリン分解性グラム陽性球菌のD群抗原の有無をラテックス凝集反応(ダイヤトロン)で調べると、本抗原を有する菌株は約30%であった。さらにアピストレプトを用いて同定すると70%が腸球菌で、すべてEnter ococcus faecalis であった。E faecalis に対する最小発育阻止濃度(MIC)を測定すると、アンピシリン、セファゾリンおよびセフテラムのMIC_<90>はいずれも≧128μ9/mlであった。また、VCMのMICは0.032〜1μg/mlであった。VCMのMICは低かったが、分離した度球菌からDNAを抽出し、これを鋳型にVCM耐性遺伝子vanA、vanB、vanCのプライマーを用いてPCRを行ったところ所定の大きさのバンドは検出されなかった。分離した腸球菌に対するβ-ラクタム薬のMICが高かったので、肺炎球菌のペニシリン耐性遺伝子のプライマーであるペニシリン結合蛋白質(PBP)1A(430bp)、PBP2B(77bp)、PBP2x(292bp)を用いてPCRを行うと、PBP2AとPBP2Xで所定の大きさのバンドが検出される菌株が認められた。以上の事実から、現在の所、ヒト口腔常在E.faecalis はVCM耐性遺伝子を保有していないものと推定される。しかし、β-ラクタム薬耐性肺炎球菌のPBPと類似したPBP遺伝子がE.faecalisに存在してβ-ラクタム薬耐性を示している可能性が示唆された。
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