本研究ではヒト口腔におけるバンコマイシン(VCM)耐性腸球菌(VRE)の検出頻度と腸球菌の抗菌薬感受性について検討した。20〜64才の被験者42名、65〜97才の高齢者125名およびVCM投与患者12名から得た唾液から腸球菌(CS寒天培地)とVRE(6μg/ml VCM添加CS寒天培地)を分離した。腸球菌の検出頻度は20〜64才の被験者で43%、65〜97才の被験者で39%、VCM投与患者で58%であったが、VREは全被験者から検出されなかった。93株のエスクリン分解・カタラーゼ陰性グラム陽性球菌(腸球菌)の抗菌薬感受性を測定すると、piperacillin、cefaclor、cefazolin、cefmenoxim、cefmetazoIe、cefteramおよびimipenemのMIC90は≦2μg/mlと小さかった。aztreonamとlatamoxefのそれは8と≧128μg/mと大きかった。VCMのMICは0.O32〜1μg/mlの範囲であった。ofloxacin、minocycline、erythromycin、clindamycinおよびgentamicinのMIC90は0.016〜16μg/mlであった。耐性株はβ-lactam薬で4株、macrolide薬で3株およびminocyclineで34株分離された。β-lactam薬耐性株ではβ-lactamase活性は認められなかった。腸球菌から抽出したDNAを鋳型にVCM耐性遺伝子vanA、vanB、vanCのプライマーを用いてPCRを行ったところ所定の大きさのバンドは検出されなかった。ところが、β-lactam薬耐性株の一部では、PCR法で肺炎球菌のペニシリン耐性遺伝子のペニシリン結合蛋白質2Aと2Xが所定の大きさのバンドで検出された。 以上の事実から、現在の所、ヒト口腔常在腸球菌はVCM耐性遺伝子を保有していないものと推定される。しかし、β-lactam薬耐性株はPBP遺伝子の変異によって出現した可能性が示唆された。
|