口臭患者の7割が機器検査で口気悪臭を認めないことを見いだした。こうした患者に口臭定量を繰り返すと口臭に対する「思い込み」が軽減されること、ただし、測定をガスクロで行うと時間・費用コストは膨大で、その点、センサ型口臭測定器を開発して頻回計測値を提示すると自己臭こだわりの消失傾向が見られた。しかし、それでも口臭確信が揺るがぬ難治例には、研究趣旨について同意を得てセルフヘルプグループ療法を試みた。口臭こだわり、対人恐怖に関わる計25項目のスケール型質問票を用意し、療法前後に記載さ、既製心理検査紙も用いた。カリキュラムは3-7名の患者と誘導役の歯科医師で構成される2時間で、冒頭に集団療法ルールと日程説明、次に口臭の原因、治療対策の講義に20分を割き、tea breakを設けた。その後、各自から口臭を気にし始めた契機・その後の経過を語らせ、それについて質問、感想を述べ合うよう促した。その結果、質問スケールのほとんど全てで低下が認められ、特に「口臭は不治」、「自分だけ強い口臭」、「人の態度に由来する口臭確信」、「口臭こだわりの常態化」が統計学的有意に減少した。また、対人恐怖因子は「他人からの評価への過剰意識」が有意に減少した。この他、エゴグラムのfree childが上昇した。これらの結果から口臭こだわりの強い自己臭症患者にセルフヘルプグループ療法が有効であることが立証された。治癒の機構は、患者の背景にある対人恐怖が同じ悩みの仲間との語り合いを通して緩和され他者の前での自己開示が可能となり、対人緊張の緩和が促進されたと思われる。また、他者の口臭妄想の履歴を聴くことによりその妄想が自己の中にもあることを気付く「脱錯覚」が、口臭こだわりを緩和させたものと推察した。
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