研究概要 |
本研究では,仮骨延長法によって得られた新生骨に歯の矯正移動を試み,移動歯ならびに周囲歯槽骨についてX線学的および組織学的に検討した. 実験動物は雄性ビーグル犬を3頭用いた.矯正用歯列拡大ネジ装置に鋳造製アタッチメントを鑞着した下顎骨延長装置を製作した.全身麻酔下に左側第3前臼歯と第4前臼歯間で下顎骨体骨切り術を適用し,粘膜貫通性にチタンミニプレートをネジ止め固定し,下顎骨延長装置を装着した.骨面に計測基準となる金属性マーカーを埋入した.骨切り後1週目から1日1mmずつ10日間延長し,その後3ケ月間保定した.保定後,第3前臼歯(実験歯)を骨延長部にコイルスプリングを用いて遠心移動させ,同時に第2前臼歯(対照歯)も遠心移動した.4ヵ月間の歯の移動後,全身麻酔下に実験動物を灌流固定し,下顎骨を摘出した.実験期間中,X線写真を術前,術直後,延長開始時,延長終了時,延長終了後1週ごとに撮影した.摘出した下顎骨はマイクロカッテイングマシンで切り出し,脱灰後パラフィン包埋し,連続切片を作成し、HE染色を施した. 歯の移動前の歯槽骨延長部はサドル状に陥凹を示し,実験歯歯肉に退縮がみられた以外,良好な状態を保っていた.X線的には骨切り部断端から中心へ向けてX線不透過性が経時的に拡大し、歯の移動開始時にほぼ骨化していた.歯の移動に伴い,骨延長部は骨量を増し,歯根露出等の異常所見はみられなかった.X線的に実験歯の遠心根は新生骨に移動し,異常所見は認められなかった.組織学的には,骨延長部は通常の歯槽骨に対して骨梁が疎で,骨梁の線維走行は延長方向に一致していた.1歯に根尖吸収がみられた以外,実験歯は特に問題なく新生骨に移動していた. 以上のことから,仮骨延長後3ヵ月の保定を経た新生骨に対して歯の移動は通常の場合と同様に行えることが示唆された.
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