本研究は、食品中のう蝕予防効果が期待される物質について、S.mutansに及ぼす作用を検討した。また、歯質に及ぼす影響を総合的に判定するために、エナメル質表面にS.mutansを付着・生育させ、経時的に菌と歯質表面の変化を形態学的に観察し、う蝕モデルの指標を得るための基礎研究を行った。 物質とその濃度として、0.2%NaF溶液はフッ化物洗口に、0.5%緑茶抽出ポリフェノールは飲料や洗口に用いられ、100%キシリトール入りガムの口腔内濃度は10%程度と考えられるので、これらの物質に関して検討した。キシリトールに関しては明らかな生育抑制効果は認められず、glucoseを添加した場合pHの低下がみられた。ポリフェノールとフッ化物は菌数の減少がみられ、pHは低下しなかった。キシリトールとポリフェノールの混合は、相乗効果はみられず、混合時に両物質が反応するため、実験系からはずした。 緑茶やウーロン茶、ミャンマーのDenta Thuka、フィリピンのTsaang Gubatがう蝕予防効果のある飲料として知られている。この浸出液に関して、緑茶とウーロン茶ではS.mutansの生育抑制が見られ、Tsaang Gubat、Denta Thukaは弱かった。緑茶成分のフッ素とポリフェノールについて、飲用濃度で検討した結果、S.mutansに対するの生育抑制作用の主体はポリフェノールであった。 S.mutansを歯面に付着・生育させ、人工プラーク中のS.mutansの細胞外および細胞内の変化、エナメル質最表層におけるS.mutansの付着状態およびエナメル質の脱灰状態について結晶構造レベルで観察した。今回の研究では、S.mutansの人工歯垢やエナメル質が経時的にどのような変化を生じるか、光化学顕微鏡および透過型電子顕微鏡にて観察した。今後、このようなう蝕および予防の効果判定モデルの基礎的研究を続けていく予定である。
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