本研究では、新しい口臭治療法の開発を目指して、まず実際に口臭を主訴とする患者の口臭の強さと種類について調べた。口臭の主な原因物質は、口腔内に存在する菌が食物や口腔粘膜落屑上皮等のタンパク質を分解、代謝する際に産生される揮発性硫化物(VSC)であるといわれている。九州大学歯学部附属病院口臭クリニック受診者113名(平均年齢48歳、男性37名、女性76名)を対象として、調査を行った。呼気中に含まれる硫化水素、メチルメルカプタン、ジメチルサルファイドおよびその総量を、ガスクロマトグラフィー、ポータブルサルファイドモニターを用いて測定した。またこの結果と、官能試験との相関を調べた。次に、唾液流出量および舌苔付着量を調べ、口臭の強さとの相関を求めた。さらに、歯周組織検査を行い、歯周病の程度と口臭の強さおよび種類について検討を行ったところ、以下の結果を得た。 1.各口臭検査法による測定結果を比較したところ、官能試験とガスクロマトグラフィーの結果との間に高い相関が認められた(相関係数0.69)。 2.対象者113名のうち、社会的容認限度を越える口臭を示す者は59名と約半数を占めた。 3.口臭の強さと唾液流出量との間には相関は認められなかった。 4.舌苔の付着量が多い者ほど口臭は強く、VSCの中では特に硫化水素の量が多かった。 5.歯周組織検査の結果、4mm以上の深いポケットをもつ歯周炎患者では、VSCの中でメチルメルカプタンの量が多かった。 以上の結果から、口腔清掃状態および歯周炎の程度に応じて、特徴的なVSCの産生が示された。また、これらVSCを産生する菌体酵素の同定が必要であることが示唆された。
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