本研究は、現行の歯科補綴治療において繁用されている歯科用レジンおよび金銀パラジウム合金が、DNA分析による個人識別に有用なDNA源となりうるかどうかを明らかにするものである。 1. 平成11年度の成果として、1辺が5mm、厚さ1mmの歯科用レジンの試験片に作成した全唾液の唾液斑から、通法によるDNAの抽出に成功した。すなわち全唾液に試験片を浸した後、それぞれ1日(n=10)、1週間(n=10)、2週間(n=10)、1ヶ月(n=10)、2ヶ月(n=10)室温に放置して作成した唾液斑から最小で18.3ng、最多で126.7ng、平均で63.4ng(SD=9.6)のDNAが吸光度上回収され、回収量は、唾液斑の放置期間の経過とともに減少する傾向が認められた。 これらの結果から、歯科補綴物が有用なDNA源になりうるとすれば、当初の予測どおり唾液に含まれる口腔粘膜細胞に由来することが多いであろうと確認された。 2. 上記によって回収されたDNAを試料として、PCR法によるAmelogenin領域を対象としたMannucciらの性別判定法を試みたところ、全試料より明瞭に性別判定が可能であった。さらにD4S43locusにおけるVNTRの変異の検索を行ったところ、サイズの大きなalleleはいずれの試料からも検出されず、繰り返し数1の184bp付近のバンドのみが検出された。このことから得られたDNAはかなり細分化されていることが裏付けられた。 この結果、今後のDNA分析法は、変性DNAを対象としたtarget sizeの小さいものを選択していく必要のあることがあらためて認識された。
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