研究概要 |
1.歯科用レジンからのDNA抽出 試験的に作製した唾液斑付着の試料片から、最少で15ng、最大で126.7ngのDNAが得られた。これを試料の室温放置期間別に検討してみると、試料片の放置期間が長い程DNA抽出量は減少するという傾向が見られたが、いずれの試料からも分析に供するに十分量のDNAが得られた。また、歯科医院より収集した実際的試料片からは、最少で35.7ng、最大で1.52μgのDNAが得られたが、今回検索した範囲内においては、実際的試料が患者の口腔内に装着されていた期間およびDNA抽出までの放置期間と得られたDNA量の関係について、いずれの場合にも特に両者間に相関関係を見出すことは出来なかった。 2.抽出DNAによる分析 レジンより抽出したDNAについて、Mannucciらの性別判定法と、D4S43locusにおけるVNTRの多型について検索を行ったところ、検索した全試料において明瞭に男女の判定が可能であり、VNTR多型の検索では、allele 1における4種のsize variationのうち、3種を見出すことが可能であった。 3.手指を接触させた歯科材料からのDNA抽出と分析 レジン、金銀パラジウム合金、銀合金の3種の試験片を手指により加圧し、ここからDNAの抽出を試みたところ、試料の半数から吸光度上10ng以上のDNAが得られた。これらについてMannucciらの性別判定法と、D4S43 locusにおけるVNTRの多型の検索を行ったところ、全例において正確な性別判定が可能であり、4種のsize variationを有するD4S43 locusのallele 1のバンドも全例で明瞭に検出された。 さらにTH01,TPOX, CSF1POの3 locusにおけるSTR多型の検出では手指母体と完全に一致する多型パターンが得られ、mtDNA D-LOOP HV1領域の塩基配列も手指母体と完全に一致したことから、歯科補綴物は極めて重要なDNA源と成り得ることが明確となり、低分子化という特性を考慮した上でのDNA分析法を用いれば、個人識別に極めて有用であることが判明した。しかしながら、2〜8.5ngの微量のDNAしか得られなかった試料については、mtDNAにおける塩基配列の比較において、実際の手指母体ではない術者の塩基配列が検出され、重大な汚染の危険性も示唆された。今後、どの程度の汚染が、どの程度の影響をDNA分析結果に及ぼすのか、またそれらの評価法についてさらなる検討が必要と考えられた。
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