研究概要 |
フッ化物(F)の全身的応用による齲蝕予防効果と過剰摂取による歯のフッ素症を防ぐためには一日フッ化物摂取量を推定しておくことが重要であることは論をまたない。それに先立って食品や食事中のF分析法を確立しておくことが肝要である。しかし食品や生体試料などの有機物を多量に含む試料についてのF分析法は特殊な定量操作を必要とし,とくに食事試料などの低濃度F試料を精度よく分析する統一的方法がないのが現状である。本研究は国立感染症研究所口腔科学部(樋出ら)との共同で開発したテフロン製微量拡散分析装置を用いた食品F分析法の基礎的検討を行ったものである。Conway型改良型拡散分析装置とTavesによる拡散分離反応を利用した微量拡散-Fイオン電極による食品中フッ化物分析の基礎的条件を求めた。分離拡散液HMD S過飽和5M過塩素酸,温度60℃による条件においてFブランク値は拡散12時間で平均0.0194μg(SD : 0.0027μg)であり,3-20時間では0.0121-0.0259μgと極微量であった。各食品の拡散時間による回収濃度の推移を観察すると,各食品試料のF値は60℃・12時間拡散でほぼ平衡に達した。その結果は,調製粉乳2種では0.225ppmおよび0.452ppm,野菜がゆ : 0.195ppm,Bovine muscle(BM)は0.217ppm,Kale : 1.31ppmおよび緑茶 : 60.9ppmであり,さらにBMは参照値との比較では98.6%の収率であった。これらの食品試料へのHAPによるフッ化物添加(0.1-1.0μg)回収率は平均値91-102%(SD : 2.9-12.3%)の範囲にあった。結論 : テフロン製微量拡散装置による食品中フッ化物の基礎的検討を行ったところ,食品中F濃度は(0.2ppm-61ppm)にかかわりなく,60℃・12時間(静置 : HMDS過飽和過塩素酸4ml)の拡散条件で平衡に達することが確認された。また難溶性HAP添加F回収率は91-102%と良好であったので,非灰化試料の拡散分析の信頼性は高いものと認められる。
|