研究概要 |
始めに臨床教育において医療認知心理学の必要性を示唆するための実験を行った。臨床判断は客観的で理路整然とした診断思考に基づいて行われているかというと,むしろ直感的で簡便な心理的早道を経ていると言われている。得られる情報には曖昧さや誤りなどの不確定性が多く含まれ,同じ治療法を施行したにも関わらず異なった効果がみられることも稀でない。このような避けがたい不確実性下で正しく評価するには,判断や行動に影響を及ぼす心理的要素を理解する必要があると考えた。 被験者は歯科学生(4年生)と臨床研修医である。質問は小冊子を作成し,順に解答させた。解答は選択肢の中で正しいと思われるものについて一つを選択させた。質問内容は,(1)事前確率の無視,(2)標本数と確率変動幅の関係,(3)過去のデータの影響性,(4)平均への回帰,(5)捜し易さ,(6)想起のし易さ,(7)枠組み効果,および(8)錯覚的因果関係などの心理的傾向を説明するために,医学部の臨床疫学,医療情報学や臨床心理学教育で例示として使われているものを用いた。得られた回答は各グループ毎に集計し,両者に差があるかについて検定した。 その結果,(3)過去のデータの影響性については,学生の方が高い正解率を認めた。しかし,他の心理問題のほとんどは差が認められず,同じ判断傾向だった。 以上のように,臨床に携わる研修医が学生と同じような錯覚による判断を行っていることからも,問題解決を行う場合の思考過程に関する教育の必要性,さらに本実験テーマである医療面接時の傾聴技能に関する研究の必要性が示唆された。また,本年度は面接時の行動を観察するVTRシステムを完成させたので,次年度はデータの聴取へと進める予定である。
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