11年度は、ラセミ化反応による年齢推定に最も適した骨の種類をみいだすことを目的に検索した。試料は男性(22歳から77歳)の大腿骨、頭蓋骨、胸骨、腰椎、寛骨、肋軟骨、仙骨の7種類の骨(10個体)を用いた。アスパラギン酸のラセミ化率は、骨のtotal amino acidからガスクロマトグラフィーにより検出した。実際年齢とラセミ化率との相関(r)は、大腿骨(0.985)≧頭蓋骨(0.977)≧胸骨(0.974)>腰椎(0.931)>寛骨(0.881)>肋軟骨(0.763)>仙骨(0.739)の順に高く認められた。アスパラギン酸のラセミ化率は頭蓋骨>大腿骨>肋軟骨>仙骨>≧寛骨≧腰椎≧胸骨の順に高く検出され、骨の種類により差がみられた。D体は遊離アミノ酸に多く含まれ、脆い骨では洗浄あるいは研磨する際、多量の遊離アミノ酸が除去され、低く検出された可能性がある。われわれは試料の洗浄を2回行い、1回目と2回目のラセミ化率の差を比較した。大腿骨および頭蓋骨の2回目の洗浄は、1回目より僅かな低値を示したが、それ以外の骨では1回目よりかなり低く検出され、差がみられた。(P:0.01-0.001)。以上の成績は、total amino acidにおける男性試料からのもので、女性試料ではさらに低いD/L比を示すものと思われる。何故ならば、女性は骨粗鬆症など骨疾患患者が多いためである。ラセミ化反応は代謝の緩慢な組織で速いと考えられている。女性は閉経後、健常者でも骨代謝回転が増加し、骨粗鬆症患者ではそれ以上に骨代謝回転が上昇することが指摘されている。 これらのことから、骨のtotal amino acid中のラセミ化反応による年齢推定は、今回の7種類の中では頭蓋骨あるいは大腿骨を用いるのがもっとも有用であると思われた。
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