ラセミ化法によるヒトの骨からの年齢推定について、最も容易に採取しやすい頭蓋骨に着目した。そして、その手段の一つとして老化促進モデルマウス(SAM/Iw)の促進系(SAMP2/Iw)と抵抗系(SAMR1/Iw)の頭蓋骨をもちいてD-アスパラギン酸(D/L比)を求めた。 SAM/IwのD/L比は、9ヵ月齢まではSAMP2/Iwおよび雌で高く検出された(P<0.001)。しかし、12ヵ月齢ではSAMR1/IwおよびSAMP2/Iwにかかわらず雄で高く認められた(P:0.01-0.001)。SAM/Iwの前頭骨、頭頂骨および頭頂間骨のD/L比は、頭頂骨>頭頂間骨>前頭骨の順に高い値であった。しかし、D/L比の推移の仕方では骨の種類による差はほとんどみられなかった。ヒトの頭頂骨の内面には、動脈溝、静脈溝が走り、温度が高いことが推測できる。しかし、SAM/Iwの頭頂骨の内面には、はっきりとした脈溝はみられない。前頭骨のD/L比が他の二つの骨のそれよりも低いのは、前頭骨の内面の空洞が影響しているためかも知れない。また、頭頂骨は骨が厚く、他の骨と比べ、洗浄の際、遊離アミノ酸が除去されにくいのかも知れない。著者はヒト大腿骨を洗浄すればするほど、徐々にD-アスパラギン酸が低下することを経験している。 これらのことから、SAM/Iwの頭蓋骨のD-アスパラギン酸は、若齢ではSAMR1/Iwより老化の早いSAMP2/Iwで高く、体温の影響をかなり受けていることが示唆されたが、老化が進むに従い雌雄差の方が大きいことが判明した。実際にヒトの骨から年齢推定を行うには、女性骨の場合、充分注意が必要であることが再確認された。
|