アミノ酸ラセミ化法による年齢推定において、もっとも適した指標はアスパラギン酸(Asp)である。しかし、Aspに他のアミノ酸を併用し比較検討することは、正確な年齢推定を行う上で意義あることと思う。そこで、骨の総アミノ酸(TAA)を酸不溶性コラーゲン(IC)および酸可溶性ペプチド(SP)に分別し、Aspの他にグルタミン酸(Glu)、アラニン(Ala)を加え比較検討した。 骨は献体からのもので、16歳から74歳までの男性の大腿骨21例を供した。試料は総アミノ酸では10mg、酸不溶性コラーゲンおよび酸可溶性ペプチドでは100mgの粉末(74〜297(μm)に6M塩酸1mlを加え分別した。D-アミノ酸はラセミ化率{1n[(1+D/L)/(1-D/L)])}で求め、FSキャピラリーカラム内蔵のGCにより検出した。 我々はSPからD-アミノ酸を検出すると、TAAおよびICより多量に検出できることをすでに報告している。しかし、SPのD-アミノ酸量は、抽出する酸の種類と量、試料粒子の大きさおよび攪拌時の強さ等によって異なって検出される。このため、慎重な分析操作が必要である。大腿骨のラセミ化率およびラセミ化反応速度は、TAAおよびICではAsp>Glu>Alaの順で、SPではAsp>Ala>Gluの順で高く、速く検出された。とくにSPからのラセミ化率は、GluよりAlaで高く興味ある知見が得られた。ラセミ化率と実年齢から回帰直線の式を求め相関係数(r)を算出すると、TAAおよびICよりいずれもSPがもっとも高い値が得られた。串推定年齢を比較すると、Aspより実年齢に近い値が得られたGulおよびAlaの個体は、それぞれTAAでは5例、3例、ICでは6例、4例、SPでは1例、3例認められた。このようにAspの他にGluおよびAlaを併用することは年齢推定の信頼性をチェックする上で意味の大きいことと思う。
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