研究概要 |
ヒトの歯周ポケットにおけるPorphyromonas gingivalisの付着,定着,増殖機構の実態を解明するため,P.gingivalsと同菌が産生するglycocalyxの関係を全菌抗体,線毛抗体ならびに糖染色を用いた免疫電顕法により検索し,以下の成果を得た。重度成人性歯周炎罹患抜去歯上で,歯周ポケット底部に位置するプラークフリーゾーンを走査免疫電顕法で検索したところ,被験13試料中8試料から散在性に小集団を形成したP.gingivalsが同定され,その表層にはglycocalyx様の粘液状構造物が観察され,歯周ポケット深部ではP.gingivalsは直接歯根面に付着しバイオフィルムを形成していることが明らかとなった(J Periodontol,2000:71;1319-1326)。次いで,プラークフリーゾーンに棲息している細菌を超微形態学的および透過免疫電顕法により検索した。セメント質に接した部位には1〜2層のグラム陽性あるいは陰性の短桿菌やスピロヘータが優位に観察され,長桿菌もわずかながらみとめられた。グラム陰性桿菌はセメント質表層のcuticleに近接して観察される傾向がみられた。さらに,細胞壁内が無構造化したghost状の菌体が多数観察された他,貪食した細菌菌体を細胞内に貯留した白血球がみられ,プラークフリーゾーンが生体防御の最前線であることが改めて示唆された。免疫電顕では,金コロイド標識された抗P.gingivals線毛抗体陽性反応が線毛部に特異的に観察された。その菌体表層には,糖染色により染色され電子密度の高い層状の構造物がみとめられた。このことより,走査免疫電顕法でみられたP.gingivals表層の粘液様構造物は同菌の産生する菌体外多糖であろうと推察された。P.gingivalsは歯周ポケット底部では線毛を介してセメント質表層に付着した後,バイオフィルムを形成し宿主の免疫担当細胞に抵抗性を示し,歯周組織破壊に関与していることが示唆された。
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