ラジカル反応はその合成化学的有用性及び反応自体への有機化学的興味から、近年盛んに研究されている。申請者は、ラジカル反応を用いてハロヒドリンまたはα-ゼレノアルコールの水酸基α-位に立体及び位置選択的にC2ユニットを導入する方法を最近開発し、その研究過程で新規ラジカル環核大反応を見い出した。本研究では、この環核大反応の機構を実験的に明らかにすことを計画した。 平成11年度は、重水素ラベル基質を用いた実験及び反応速度論的解析した。本環拡大反応は3員環型5価ケイ素ラジカルを経る不可逆反応であることが明かとなった。この結果は、5価ケイ素ラジカルの存在を実験的に示した初めての例である。このような5価ケイ素ラジカルを中間体として想定することで、他の類似反応の機構が合理的に説明できる。 平成12年度は、本ラジカル反応を医薬化学へ展開した。先ず、D-グルコースがイノシトールトリスリン酸(IP_3)のイノシトール骨格のmimicとなりうる想定し、代謝的に安定なC-グリコシド型グルコース誘導体を数種類設計し、上記あラジカル反応を鍵反応として合成した。これらの生物活性を検討した結果、IP_3受容体親和性並びに細胞内Ca^<2+>-放出活性を有する新規リガンドを見い出した。さらに、本ラジカル反応をアンチセンス核酸合成用のヌクレオチドユニットとしての利用及び抗ウイルスル活性ができる4'-分枝糖ヌクレオシドの合成に応用した。
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