分子は外部からのエネルギー(光、放射線、電気等)を受けると電子的に活性化が起こり、電子受容体に対して電子を放出することが知られている。我々は、これまで亜鉛アート錯体を用い、配位子転移反応が配位環境(すなわち、配位子の種類や数、そしてカウンターカチオン)によって制御されうることを明らかにしてきた1-5。今回は、配位環境によってアート錯体の電子状態を制御することを計画し、外部からのエネルギーを必要としない一電子移動反応をデザインした。 生体内で酸化還元反応を行っているFe(II)、Mn(II)、Co(II)を中心金属としたアート錯体は、配位子転移反応を起こさずピナコールカップリングを代表とする一電子移動反応を進行させることが明らかとなった。また、本反応はアート錯体に特徴的な反応であり、通常の2配位錯体では、いずれの金属でも、全くもしくはほとんど進行しなかった。この結果は、錯体の中心金属の電子状態が配位環境によって制御できることを示唆している。実際、生体内酵素等では、外部からのエネルギーに頼らず配位環境のみで一電子移動反応を制御しているものと理解できる。さらに、本反応は系内に再還元系を構築することで触媒的にも進行することが明らかとなった。
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