研究概要 |
1.天然薬物の抗トリパノソーマ活性スクリーニング Trypanosoma cruziのtrypomastigoteをHeLa細胞に感染させるin vitroのアッセイ系を用いてアジア地域で用いられる生薬のスクリーニングを行い,Laurus nobilisの葉,Psoralea corylifoliaの種子,Piper longumの果実等に強い抗トリパノソーマ活性を見い出した.また,T.cruziのepimastigoteを用いるアッセイ系を用いてベトナムで使用される生薬のスクリーニングを行い,Alpinia galangaの根茎,Dendrobium nobileの全草,Paris polyphyllaの根,Vitex trifoliaの果実等に強い活性を見い出した. 2.活性成分の単離・同定 上記のスクリーニングで活性を示した生薬について活性成分の単離・同定を行い,Laurus nobilisの葉(ローレル)から2種のセスキテルペンγラクトン(dehydrocostus lactone,zaluzanin D)及び1種のモノテルペンヒドロペルオキシドを単離した.このうちモノテルペンヒドロペルオキシドは1μg/mlでトリパノソーマの感染を98%阻害し,細胞内での増殖も83%抑制し,10μg/mlでもHeLa細胞に対し毒性を示さなかった.また,Alpinia galangaの根茎からは1'-acetoxychavicol acetateを始めとする8種のフェニルプロパノイドを得た.これらの化合物の活性の比較から,これらのフェニルプロパノイドに於いては側鎖の2重結合の反応性が活性に重要であることが示唆された.さらに,サラワクで伝統的に赤痢等に用いられている植物であるDesmos dasymachalusの根の抽出物に抗トリパノソーマ活性を見い出し,塩基性画分から活性成分としてdasymachaline(1)及びそのN-オキシド(2)等を単離した.N-オキシド2の最小致死濃度は元のアルカロイド1の10分の1程度であった.これまで数種のアルカロイドの抗トリパノソーマ活性が報告されているが,アルカロイドのN-オキシドの活性に関する報告はなく,今回の発見は,新たな抗トリパノソーマ活性物質郡を提供するものと期待される.
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