ホルナーエモンズ反応の反応機構をアプイニシオ分子軌道計算を用いて調べた。反応基質してジフェニルホスホノ酢酸メチルのLi塩とアセトアルデヒドを用い、リチウムへの配位溶媒としてジメチルエーテル1分子を用いた。計算はハートリーホック法により基底関数として3-21G*を用いたところ、実験化学的に得られるシス選択性を説明できることがわかった。反応はリチウムエノラートのアルデヒドへの付加(TS1)、続くオキサホスフェタン形成(TS2)、リンでのシュードローテーション、P-C結合の開裂によるエノラートの形成、そしてβ脱離によるオレフィン形成によって進行することがわかった。ただし、P-C結合の開裂により生成するエノラートのβ脱離はほとんど自発的に起こり、従ってエノラートは中間体とは考えないほうが良いようである。TS1ではシス体の方が有利であるが、TS2ではトランス体の方が有利であった。25℃、ガス相でのギブス自由エネルギーを比較するとTS1とTS2のエネルギーはほぼ同程度で反応の選択性はないと言う結論となる。これに連続誘電体モデル(SCIPCM)によるバルクの溶媒効果を加えたところ、TS2の方がTS1より溶媒による安定化を受けやすいことが分かり、律速段階はTS1となるため、シスーオレフィンが主生成物になることが分かった。また、-78℃においても同様の計算を行ったところ、溶媒効果を加えなくても温度を下げただけで律速段階はTS1となった。 以上より、本研究ので行った計算は、温度効果および溶媒効果も含め実験で得られる反応の選択性を説明できることが分かった。
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