マラリアは、世界中で年間3億人以上が感染し、200万人前後が死亡するといわれる最も重要な感染症の一つである。殺虫剤による媒介蚊の撲滅は今日においては不可能であり、ワクチンもまだ開発されいないため、治療手段として化学療法が最も有効である。しかし、古くから使われているマラリア特効薬クロロキン等に対する耐性原虫の出現や新薬アルテミシニン等の毒性の問題等から、より安全で安価に供給できる新薬の開発が求められている。本研究では、海洋生物由来の物質100余種について、A.U.Kara博士らの協力を得て、マウスによるin vivoスクリーニングを行った。その結果、海綿由来のアルカロイドの一種マンザミンAが強い抗マラリア作用を示すことがわかった。その作用をクロロキンやアルテミシニンと比較した。マウスにPlasumodium bergheiを接種2日目にマンザミンAを100μM/kg投与したマウス5匹のうち2匹(40%)は60日後も生存していて完全に治癒したことを示した。アルテミシニンでは1000μM/kgの投与量で、60日生存は1匹であった。クロロキンでは最も有効な投与量においても10日目までに全て死亡した。この結果からマンザミンAは、既存薬を凌ぐ効果があることがわかった。マンザミンAの構造・活性相関を調べるため、その同族体や誘導体についての活性試験が行われた。これらのうち、8-ヒドロキシマンザミンAにはクロロキンより有効な活性が見られたが、他の同族体や誘導体には活性は見られなかった。これらのことから、マンザミンAの複雑な構造そのものが活性発現には重要であると思われる。今後、マンザミンAと関連物質について、作用機序の解明等更なる研究が必要である。
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