研究概要 |
今年度は、ペルフルオロイミダート類を用いた天然有機化合物の合成への応用を検討した。ペプチドグリカン生合成阻害剤であるリポシドマイシン(1)の1,4-ジアゼパノン環部の5位にR-配置のフェニル基とS-配置のエステル基を有する化合物の合成(2と3)を行い、その立体化学を推定するすることにした。 まず、(2S,3R)-フェニルグリシジルトリフルオロアセトイミダートを0.5当量の塩化ジエチルアルミニウムで処理したところ、エポキシドの開環反応がベンジル位で選択的に進行し、6員環ジヒドロオキサゾリンが97%で得られた。加水分解、ジオール部のアセトニド保護、N-4位のメチル化を経た後トリフルオロアセトアミド基を加水分解してアミンフラグメントを得た。相当するトリクロロアセトイミダートから同様にして得られるトリクロロアセトアミド基ではこの脱保護を行なう事ができず、トリフルオロアセトイミダートを有機合成に用いる利点を明らかにできた。カルボン酸フラグメントと縮合後、水酸基の保護基の架け替えを経て、アジドアルデヒドに導いた。酢酸共存下、酢酸エチル中10%Pd-Cを用いて接触還元したところ、アジド基のアミノ基への還元、分子内でのイミンの形成とその還元反応が一挙に進行し、1,4-ジアゼパノン環化体を収率94%で得ることができた。最後に、N-1位のメチル化を行い、5位にR-配置のフェニル基、6位にS-配置のアセトキシ基を有する2を収率87%で得ることができた。 さらに5位にS-配置のエステル基を有する化合物合成のため、(2S,3R)-4-ベンジルオキシ-2,3-エポキシブチルトリフルオロアセトイミダートを用いて同様のエポキシドの開環反応を検討した。2.5当量の塩化ジエチルアルミニウムを要したものの、選択的に5員環オキサゾリンのみを収率86%で得ることができた。先と同様の手順でアミン体へと変換後、カルボン酸との縮合、TBDPS基を脱保護してアルコールとした後酸化してカルボキシル基を導入した。メチルエステルとし、保護基を架け替えてアジドアルデヒドへ導びき1,4-ジアゼパノン環化体とした後、N-1位のメチル化を行い、目的とする3へと導くことができた。 今回合成した2つの化合物(2と3)のNMRによる配座解析の結果は、1の分解物のそれと良く一致する事から、1の1,4-ジアゼパノン環部の立体配置を、2S,5S,6Sと推定する事ができた。
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