研究概要 |
ペルフルオロイミダート類は、強い電子求引性を示すフッ素官能基を分子内に有することから既存のイミダート(特にトリクロロアセトイミダート)に比べ、脱離基として優れた特性を有することが期待できる。この点を考慮し、グリコシル化をはじめとするペルフルオロイミダート類を用いる新反応の設計と展開を計画した。 初年度は、活性DMSO種を用いた一級アミドのニトリルへの脱水反応を低沸点化合物であるペルフルオロニトリルの調整に応用し、反応系内で発生させたペルフルオロニトリルを単離することなしに、ベンジル、アリル、エポキシ、グリコシルアルコール等で捕捉するペルフルオロイミダート類の簡便合成法を確立した。 次年度は、合成されたトリフルオロアセトイミダート類を用いての、1)3,3-シグマトロピー転位、2)ルイス酸触媒によるエポキシドの開環反応、3)グリコシル化などにおける反応性や選択性を既存のトリクロロアセトイミダート類のそれと比較・検討した。既存のトリクロロアセトイミダートに比べ、安定性が増加し反応性が低下する傾向はあったが、安定性にすぐれ、精製が容易で保存にすぐれた性質を有しており、反応も問題なく進行した。 最終年度は、ペルフルオロイミダート類の天然有機化合物合成への応用を検討した。ペプチドグリカン生合成阻害剤であり、ペルフルオロイミダート類を出発原料に、未だ立体化学が決定されていないリポシドマイシン(1)の,4-ジアゼパノン環部の合成を目的に、5位にR-配置のフェニル基と3-配置のエステル基を有する化合物(2と3)を合成した。合成した2と3のNMRによる配座解析の結果、1の分解物と2と3のNMRとが良く一致する事から、1の1,4-ジアゼパノン環部の立体配置を、2S,5S,6Sと推定する事ができた。今後、本方法論を用いた1の全合成を行い、立体化学を最終決定する予定である。
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